奈 良 経 済 同 友 会
代表幹事 柳谷 勝美 
代表幹事 福本 良平

 わが国経済は、米国のサブプライムローン問題に端を発した世界同時不況のあおりを受けて戦後最大の危機に直面している。高騰していた原油や穀物など資源価格は一転急降下しているものの、経済成長の牽引力となっていた外需が急激に落ち込み、さらに円の急騰も加わり、未曾有の景気悪化が懸念される状況となっている。
 奈良県においても、海外からの低価格輸入品との競合に加えて今回の景気後退による需要の落ち込み等から、生産、売上高、収益とも低迷している。さらに、雇用情勢が悪化、個人消費が落ち込むなど、先行きの不透明感が急速に強まっている。
 そのようななか、奈良経済同友会は昨年10月に奈良市において第66回西日本経済同友会大会を開催し、共同見解「日本復活の指針 取り戻せ、日本人の美学」を発表した。共同見解において、かつて日本人が持っていた、礼儀正しさ、高い倫理観、ものを作り出すことへの敬意など「日本人の美学」を取り戻すことで、日本復活への活路を切り拓いていくことを宣言した。
 我々、奈良経済同友会は、この共同見解を踏まえ、奈良県経済の更なる悪化を防ぎ活性化へと導くため、県内民間企業の政策提言実行集団として、次の3点をテーマに、啓蒙・啓発さらに進んで具体的支援活動を展開していく所存である。

1.魅力ある奈良県づくり
 1970年代には全国有数の人口増加を誇った奈良県であるが、21世紀に入って人口減少局面を迎え、現在はその減少幅を拡大しつつある。人口減少の主因は県外への人口流出であるが、なかでも、20~30歳代前半のいわゆる若年人口の県外流出傾向が強まっている。これは、奈良県に住む魅力が乏しくなって来ていることを如実に物語るものであり、我々は「魅力ある奈良県づくり」が奈良県にとって喫緊の課題であると考える。
 奈良県経済産業の状況をみると、90年代以降、海外からの低価格輸入品の増加により繊維、木材など主要な地場産業が厳しい状況が続いている。さらに昨秋からはサブプライムローン問題に端を発した景気後退の波が県内へも急速に押し寄せてきており、今後更なる厳しい経済環境が待ち受けているものと考えられる。
奈良県においては、一昨年5月に就任した荒井知事の陣頭指揮の下、企業誘致、観光振興など奈良県活性化のための施策が積極的に推進されているところである。
 次代のリーディング産業が見出しにくい奈良県にあっては、「観光」が「魅力ある奈良県づくり」の柱として期待される。1年後に迫った「平城遷都1300年祭」は、観光立県奈良をアピールする絶好の機会としなければならない。
 経済効果という点では、現在の観光トレンドである時間消費型の観光を推し進め、奈良県での滞在型観光、宿泊観光の推進が必要であろう。今や、全国各自治体・地域が観光による地域活性化を標榜しており、地域間競争が熾烈を極めている。そのようななか、奈良に滞在・宿泊客を呼び込むためには、宿泊施設の量の拡大に加えて滞在・宿泊魅力の向上が求められる。ゆったりとした自然と歴史文化の観光地である奈良において魅力ある滞在・宿泊とは、単に宿泊施設のブランドや機能だけではなく、宿泊施設周辺のまちの雰囲気や施設からの眺望などについてもこだわりが求められるであろう。その意味において、立地も大きな要素と考えられる。全国ひいては全世界の観光地との観光客誘致競争に打ち克つためには、宿泊施設やリゾート施設の誘致先に現奈良県庁所在地も含め総合的、抜本的な検討が必要なときを迎えているのではないかと考える。
 現在、政府では道州制論議の前倒しが検討されているが、道州制導入により奈良県域が不利を被らずうまく地域活性化に結びつけられるかが問われている。魅力ある奈良とは何か、奈良にとって何が必要でどのような産業分野を伸ばしていくべきかについて、これまでの既成概念にとらわれない斬新でインパクトのある発想での議論を今こそ始めなければならない。

2.学校・教育現場との交流
 情報化・グローバル化が急速に進展するなか、子どもたちは、日々、マスコミやインターネットなどのメディアから溢れ出る大量の情報洪水に晒されている。学校内においては、学級崩壊、不登校、いじめ等が後を絶たず、学校外においても少年犯罪、誘拐、殺人等が社会問題になっており、子どもたちの置かれた環境は急速に悪化している。
 奈良県は大学など高等教育機関への進学率が高く、これまで有為な人材を数多く輩出してきた教育県であるが、今後もこの奈良県の良き伝統、特性を伸ばしていくためには、子どもたちが安心して学ぶことができ、社会に役立つ人材として巣立っていく教育環境を守り育てていかなければならない。
 これからの時代に新しい社会を築いていくには、人材の育成が非常に重要である。その意味で、次世代を担う子どもたちには社会人として必要な「基礎学力と社会ルール」をしっかりと習得させなければならない。
 子どもたちの育成はこれまで主に学校や家庭に委ねられてきたが、これからの健全な社会の構築を考えて行くにあたっては、我々企業人も積極的にかかわっていかなければならないと考える。「活力ある社会を支えていく人材の育成・教育のために、企業・経営者がどのような貢献ができるか」をテーマに、まずは学校教育の現状を知ることが重要と考え、教育現場との交流を進めていく。特に、幼少期からの教育・しつけの大切さを考えて、小学校段階の教育現場との交流を継続的に進める。学校の先生に企業や学校外の社会とふれあう機会をつくり、社会人として求められる人材とは何かについて議論していく場を創り出していきたい。

3.花の魅力にあふれた奈良県のイメージづくり
 歴史文化と並ぶ奈良県の魅力として「花の魅力にあふれた奈良県」を昨年に引き続き求めていく。本年3月には阪神なんば線開通で神戸・奈良間が直通列車で結ばれる。また、来年1月からは、平城遷都1300年祭が始まり、今後、奈良県には海外、県外から多数の来場者が見込まれる。その人たちに新しい奈良県の魅力として「花の魅力にあふれた奈良県」を印象付ける。
 花の名所・花の古社寺を歴史街道で結ぶ「奈良花の歴史回廊構想」を推し進め、「歴史文化の奈良」だけでなく「花の観光地としての奈良」の魅力をアピールする。それに加えて、学校・企業・病院・ターミナル・家庭などを四季折々の花で飾って美しいまちなみをつくりだす。そうすれば、まちの美化、市民の癒し、子どもの情操教育につながるだけでなく、県外の人たちに住みよい奈良のイメージが広がり奈良に住みたいという動機にもつながるだろう。
 2010年に「平城遷都1300年祭」で向けられる海外・県外からのまなざしを一過性のものとせず、アフター「平城遷都1300年祭」にも持続的に発信できる奈良の魅力として、「花の魅力にあふれた奈良県」を提唱するとともに、花を育てる県民運動として展開していく行動を始める。

以 上