奈 良 経 済 同 友 会
代表幹事 坂 本 高 彦
代表幹事 岡 村 元 嗣

景気は大企業の業績回復や在庫調整の一巡、株価の上昇などから緩やかながらも順調に拡大傾向を続け、自律的な回復基調にあると言われる。しかし、これらは大企業と一部のIT関連企業が中心で、大半の中小零細企業や地方経済では閉塞感は未だ払拭されていない。我が奈良県においても、繊維、プラスチック、木製品関連の製造業など主要な地場産業が、急速な技術革新、アジア各国の急激な経済成長による競争の激化などと相まって、依然、景気回復の恩恵に与れない状況が続いている。一方、個人面では、企業業績の回復を背景に、雇用環境の改善、雇用者所得の上昇、株式市場の活況などにより、個人消費が底堅い動きを続けており、マインド面で明るさがもどりつつある。
このように、経済環境面では景気の回復を実感できるまでに至ったが、その一方で、残忍な少年犯罪や相次ぐ児童誘拐殺人事件、マンション耐震強度偽造問題など、道徳・倫理観の欠如した犯罪や事件などが多発し、明るくなりかけた世相を打ち消すような動きもみられた。
こうした憂うべき社会現象の背景には、情報化社会の急速な進展とは裏腹に、家庭や地域のきずなが希薄になってきた現代社会の病理的側面が潜んでいることを看過できない。地域コミュニティが弱体化し、家庭、学校、地域、社会における帰属意識の希薄化が進んでおり、さらには自分のことしか考えない、人の心の痛みを理解できない、自己中心の考え方が蔓延している。
景気が自律的な回復軌道に乗り、さらなる回復も期待されるようになった今こそ、社会の基盤となる人づくり、地域づくりが求められている。
年頭にあたり、奈良経済同友会は、次の二点をテーマとして、行政やNPOとのコラボレーションを図りながら、啓蒙・啓発および支援活動を行っていきたい。
まず第一点は、「地域の教育力の向上」である。将来の豊かで実り多い社会を築くためには、とりわけ次世代を担う子供たちに対するしっかりとした教育が重要である。県内ではすでにいくつかの地域で教育をテーマにした構造改革特区の試みが立ち上がっているが、地域の歴史や地場産業を子供たちに学習させる環境をつくることや「読み書きソロバン」など基礎学力を向上させることで、地域に還元できる「確かな学力」を養う。また、「茶の湯」「能楽」「酒」「墨」「筆」「和紙」など奈良県を発祥の地とする優れた伝統工芸文化や地場産業を継承する「確かな人材」を育てていくことも考えていかなければならない。
第二点は、「奈良ブランドの構築」である。4年後の2010年に、奈良は平城遷都1300年を迎える。奈良県の平城遷都1300年記念事業をはじめとして、2010年に向けて関西の行政・経済界が動き始めている。この一大イベントには内外から多くの来客が見込まれるが、「何」を奈良から情報発信するかが問われる。数々の重要な歴史文化遺産を有し、これまで多くの観光客を惹きつけてきた奈良ではあるが、大交流時代を迎えた今こそ、全世界に発信しうる明確なブランドイメージの構築が求められるのではないか。平城遷都1300年という大きな節目を迎えるにあたって、改めて「奈良ブランド」を構築し、奈良の存在感を示す必要がある。歴史文化遺産、伝統工芸、食、産業文化、生活文化など奈良の持つ誇るべき特性を全国に、全世界へ情報発信しうるブランドイメージとしてまとめ上げなければならない。たとえば、奈良を舞台とした「懸賞小説」の募集も一案である。奈良には歴史上の人物、場所、あるいは社寺仏閣に関する祭り、万葉集など誇れる材料がキラ星のごとくあり、これらの材料をもとに懸賞小説を広く募る。さらには、テレビ化、映画化への展望も視野に入れながら、広く内外に奈良の魅力をアピールする。このような取り組みを通じて、より明確な「奈良ブランド」を構築し、これまで内外への発信力の弱かった奈良の再生、生き残りをめざしていかなければならない。

これまで一貫して増加してきた我が国の人口も転換点を迎え、いよいよ減少過程へ入ろうとしている。奈良県ではそれに先立ち、人口減少傾向が続いている。現在進められている三位一体改革は、人口減少のなか地方の経済的な自立を求めるものである。今後、全国各地で繰り広げられる地域間競争を勝ち抜いていくためには、まずは、地域の人材づくり、地域のブランドづくりを集中的に行うことで、情報発信力を高めるとともに地域の活性化を図らなければならない。平城遷都1300年の大きな節目は、奈良の再生、生き残りの千載一遇のチャンスでもあり、我々、奈良経済同友会は地元奈良活性化のため、引き続き提言活動を行っていく所存である。

以上