奈 良 経 済 同 友 会
代表幹事 岡 村 元 嗣
代表幹事 柳 谷 勝 美

 わが国の景気は、個人消費に弱さが残るものの、輸出の増加を背景に生産が好調で企業収益も改善しており、これまでの戦後最長だった「いざなぎ景気」を超えて景気拡大が続いている。
  一方、わが奈良県においては、鉱工業生産指数が近畿圏でも低位で推移し、繊維やプラスチック、木材関連など地場産業の景気回復が遅れている。雇用情勢が力強さを欠き、個人消費においても一進一退が続くなど、依然、先行きの不透明感がぬぐえない状況となっている。人口面においては、奈良県女性の合計特殊出生率が全国的にみても低く、一層の少子化が進行している。また、人口の都心回帰現象で、近年、若年層人口の県外流出が増加しており、人口の自然減、社会減が同時進行する状況にある。
  このように厳しさが残る奈良県であるが、3年後の2010年には奈良県を舞台にして行われる「平城遷都1300年記念行事」が迫っており、奈良県には県内外から1500万人の観光客の来訪が見込まれている。地場産業の低迷が続く奈良県においては、観光産業が県内産業活性化の切り札とも目されており、同事業は奈良のあらゆる魅力を全世界に情報発信する絶好の機会として、その意義は大きいものと考えられる。
  年頭にあたり、奈良経済同友会は、以上の奈良県の置かれた現状を踏まえ、次の3点をテーマとして、将来に渡って持続可能な奈良県の構築に向けて、啓蒙・啓発および支援活動を展開していきたい。

 まず第1点は、将来に渡って奈良県を担うことができる人材の育成である。
  昨年は、学校におけるいじめの問題や、高校の単位履修漏れなど、教育現場の混乱が露呈した年であった。学校教育は子供たちの将来に大きな影響を及ぼすだけでなく、次の社会の担い手を養成するとともに、今後の社会変化の方向性を決定することにもなる重要なステップである。
  我が奈良県は教育熱心な土地柄であり、大学等への進学率も非常に高い。しかしながら、大学等への進学者の大半は県外の大学へ進学し、そのまま県外で就職、定住というパターンも多くみられる。それゆえ、今後の奈良の活性化を展望する場合、奈良で優秀な人材を育て活躍できるしくみが不可欠で、そのためには、奈良県にとって有為な人材を供給できる基地が地元に是非とも必要である。
  幸い、県内には地域創造学部を持つ奈良県立大学があるが、さらに地元に役立つ人材を育成し増加させるため、その人材育成機能の強化を推し進める。たとえば、奈良の伝統工芸技術の継承と発展の担い手を養成する「工芸学科」を設け、将来的には奈良が全国の伝統工芸技術の集積・継承地になることをめざすこと、あるいは、将来の地元企業の経営者・指導者を養成する「ビジネスマネジメント学科」を設け、将来の地元企業経営者・指導者を養成することなどが考えられる。グローバル化が進み、全世界が大競争時代に突入したいま、国内においても激しい地域間競争が展開されている。奈良県がこの競争に打ち克っていくためには、将来の奈良を担いうる人材の育成、強化を図ることが喫緊の課題である。

 第2点は、奈良の環境を保全し、住みやすい奈良を構築することである。
  奈良県は県土の8割近くが森林に覆われており、「吉野林業」に代表される優良材の産地として、きめ細かな森林管理が行われてきた。しかし、近年の住宅建築様式の多様化や木材価格の低下などで、間伐や枝打ち等の森林整備が十分に行われなくなり、森林の放置・荒廃が進んでいる。森林は素材の供給、県土の保全や水源涵養、CO2の吸収など、多様な公益的機能を有しており、その維持保全の強化が求められている。奈良県では昨年4月から森林環境税が導入されたが、さらに、CO2排出量そのものの削減、森林保全の強化、そして林業の活性化も視野に入れた「CO2排出量取引」の導入についても早急に検討していくべきものと考える。一方、増加する不燃廃棄物や生ゴミ等についても早急な対応が迫られており、今後、市町村域を超えた広域処理再生システムの構築についても研究を進めていくべきものと考える。

 第3点は、行政に関わる者の職業倫理の向上である。
  昨年の地方行政を見渡してみると、行政トップが関わった官製談合や、職員の不祥事の発生など、住民の行政に対する期待や要望を裏切る事件が多発した年であった。三位一体改革が進められるなか、行政の受け皿として地方行政に求められる役割は次第に大きくなっており、住民の負託に応えるため行政に関わる者の職業倫理の向上が今まさに求められているといえよう。そのためには、現在進められている市町村合併や議員定数削減などをさらに推し進め財政支出カットをはかるとともに、公務員・教職員の評価制度の強化による意識改革や、監査委員の数と権限の強化によるガラス張り公開行政を今以上に行っていく必要があるものと考える。

 我々、奈良経済同友会は県内民間企業の政策提言集団として、以上3点を基本に、行政やNPOとのコラボレーションを図りつつ、本年も地元奈良の活性化をめざして提言活動を行っていく所存である。

以 上